奈良県の古道のひとつ、「横大路」を歩いてきました。
奈良県北部の奈良盆地を東西につらぬく古道で、その歴史は1400年。ほぼ一直線の「ヨコイチ」な道です。
普通の住宅地に突如現れる1000年も前の遺構や江戸時代のみちしるべ。ひゅん、とタイムスリップするような瞬間を味わえる横大路ウォーキングを紹介します。
奈良盆地を横一直線に通る「横大路」
奈良県の古道「横大路」が官道として整備されたのは今から1400年前、推古天皇と聖徳太子の時代です。日本書紀にその記述があります。
「難波(なにわ)より京(飛鳥)に至る大道(おおじ)を置く」
日本書紀の推古天皇21年(613年)の条
奈良県桜井市三輪山のあたりから、葛城市の二上山ふもと近くまで、国道166号線と平行したり、重なったりしながら通っています。東の端は初瀬街道、伊勢街道へと続き、西は竹之内街道で大阪・堺へと続いています。
距離は約13km、時速4kmで歩くとすると4時間から5時間かかる道のりです。1日の行程で歩くこともできそうですが、今回は手始め。半分だけ歩いてみることにしました。
中間地点の橿原市の八木をスタートし、そこから東の桜井市三輪へ向かいます。5kmあまりの半日コースです。
地図は持たず、「初めての道」を「とりあえず歩いてみる」小さな冒険のはじまりです。
Contents
近鉄大和八木からスタート
11時45分、近鉄大和八木駅に到着。さっそく駅前のロータリーにある地図を見てみます。
やっぱり、一応地図は見ておかないとね。
まず目指すのはお伊勢参りの道標「太神宮灯籠」です。
太神宮灯籠は横大路にあります。上の地図では駅から「上」に向かうのですが、実際は駅から南下します。
東西南北が逆なのでややこしいですが、ストリートビューのように地図上に自分を置いてみるとわかりやすいかもしれません。
わたしが高校生の時、よくこの近鉄八木駅を利用していたのですが、駅周辺はすっかり様変わりしていてびっくり。
広いロータリーができ、バスターミナルもわかりやすく、橿原•明日香観光のベースになっています。駅舎アーケードの昭和な飲み屋街もオサレなバーやレストランに衣替えしていました。
八木・太神宮灯籠
駅前交番の前を通り、南に下っていきます。250メートルほど歩くと大きな通りに出ました。通りを渡ったビルの角に「太神宮灯籠」がありました。
江戸時代のお伊勢参りの灯籠が、駅前のビル群の中に埋もれそうに立っています。電気もない時代の、旅人の道中案内。古びた石灯籠と「今」の横大路の対比、いいなあ。
さっそく横大路を歩いていきましょう。
八木駅前の新しい顔「ミグランス」です。下部は橿原市庁舎の分庁舎、上部はカンデオホテルズ奈良橿原です。
最上階にはガラス張りの展望台があり、眺めは最高!
展望台は夜9時30分まで無料開放されています。1階にはレストラン「奈良食堂」。地元の野菜を使ったメニューがウリです。オープンの頃、2度行ったのですが、ランチタイムで「めちゃ混み」でした。
「柳町」交差点を渡ると、道幅はぐっと狭くなります。昔は30メートル、40メートルもの道幅だったらしいですが、今は車1台が通るのがやっとです。車は一方通行。
横大路と下ツ道の交差点「札の辻」
数分歩くと、すぐに「札の辻」に出ました。
昔「高札場」があったのでそう呼ばれているそうです。(※高札場:政府や行政の法令を一般に知らせる貼り紙をしていたところ)
昔は旅籠だった建物を改修し、「八木札の辻交流館」として公開しています。建物の内部、2階も見学できます。とても開放的で入りやすいです。
八木周辺を知ることができる案内パンフレットや、橿原市の観光案内もいただけます。職員の方も気さくでにこにこ話しかけてくださいました。
交流館周辺の下ツ道沿いには古民家がいくつかあり、見学できるおうちもあります。外観だけでも見る価値あり、と教えていただきました。
「今日は先を急ぐのでまたお邪魔します」と横大路ウォーキングにもどります。
DATA: 八木札の辻交流館 / 橿原市北八木町2丁目1-1
大和三山「耳成山」
横大路と交差しているのは「奈良橿原線」です。このあたりから駅前のビル群を離れて住宅街に入っていきます。
お椀を伏せたようにポッコリとした「耳成山(みみなしやま)」を左手に見ながら歩いていきます。
横大路はまっすぐな道なので、「道に迷うことはない」と思っていたのですが、1ヶ所だけ「どっちへ行くの?」と迷ったところがありました。
左側の道が正解でした!
この分かれ道、三叉路の先端のところに「弘法大師堂」があったんですね。後日、歩いたコースを地図で復習していて知りました。
地図を持たずに歩くと「知らない道」を歩く発見の楽しさはあるのですが、見逃してしまうものもたくさんありますね。
三輪神社・横大路と中ツ道が行き交う
橿原市から桜井市に入りました。「ようこそ大和桜井へ・ここは横大路」というのぼりが立っています。
こんもりした杜が見えてきたのでお寺か神社がありそうです。
「三輪神社」です。桜井市三輪の「大神神社(おおみわじんじゃ)」と同じ神様をおまつりしているそうです。
江戸時代のガイドブックである「大和名所図会」にも紹介されたケヤキの大木。江戸時代を見た木なんですね。
葛城古道を歩いたときも巨樹からとてつもないエネルギーをもらいました!
この時わたしは知らなかったのですが、この三輪神社本殿の背後を通る道、これが「中ツ道」だったのです!あとで復習していて知りました。
横大路と中ツ道の交差点に祀られたのが「三輪神社」だったのですね。今、その角には地蔵堂が建てられています。
横大路と下ツ道の交差点が「八木・札の辻」。中ツ道との交差点が「三輪神社」。
自分がその時代の交差点に立っているような不思議な感じ…。一瞬、チャネリングするんですよね。タイムスリップの幻想というか。それも古道歩きの魅力なのかもしれません。
DATA: 三輪神社 / 奈良県桜井市西之宮135
この赤いはしごがあったのは「阿彌寺延命子安地蔵堂(あみじえんめいこやすじぞうどう)」のわきでした。電線がつながってるし、火の見はしごではないのかな?赤い色が鮮やかで思わず写真を撮りました。
JR香久山駅
13時、JR香久山駅に着きました。
近鉄大和八木駅を出発して1時間15分。足も疲れてきたのでちょっと休憩。お腹も空いています。
待合室のベンチをお借りして小休憩しました。持っていったパンを食べてランチとしました。おいしかったー。
JR香久山駅は「万葉まほろば線(桜井線)」の駅です。わたしが訪れた当時、駅舎のリニューアル工事が行われていました。
橿原市から桜井市に入ったのに、写真の地図には「歴史と出会う都市かしはら」とあります。なんで?
実はこのあたりは横大路が境界になっていて、北側は桜井市、南側は橿原市なんですね。JR香久山駅は橿原市に含まれます。香久山も橿原市。ややこしー。
お昼を食べ、20分ほど休憩し、出発です。
木の町・さくらいへ
香久山駅を出てすぐ、横大路はJR桜井線(万葉まほろば線)の踏切を超えていきます。時代からすれば鉄道が横大路を通った、と言うほうが正しいのでしょうね。
線路を越え、横大路は桜井市に入りました。りっぱなお家がいくつも建っています。煙り出しがあるような堂々とした古民家が点在しています。目の保養です。
300メートル南には国道165号線が走っており、かなりの交通量なのですが、騒音もここまでは聞こえてきません。静かな住宅街を歩いていきます。
庚申塚を移築、移動させず、そのままお守りしてありました。畏敬の念のあらわれでしょうか。さわらぬ○○にたたりなし?これもまた「昔と今」の交差点なのでしょうね。
「静かだなあ」と歩いていたら「ゴーゴー音」が聞こえてきました。垣根の隙間から見ると、伐採された木が山のように積み上げられています。とてつもなく広い!
樹木の匂い、製材機械の音、圧倒的なパワーが押し寄せてきます。ド迫力!広大な製材所・集積所です。
小学校の地理で「奈良県桜井市は木材の町」と習ったのですが、それをようやく実感することができました。
横大路・戒重から小西橋を渡る
「木のパワー」にすっかりテンションが上がりました!
時間は13時30分。スタートから1時間30分近く歩いてきました。横大路ウォークももうすぐゴールです。
奈良県あるあるの難読地名「戒重」。カッコイイ!仏教と関係のある地名なのでしょうか。
500mほど行くと、川に出ました。「寺川」です。
橋を渡ったところにお堂が見えます。このあたりを「横大路」の終点(あるいは起点)としているところが多いようです。交差点名は「小西橋東詰」。
もう少し先まで歩いてみます。
小西橋を渡り、まっすぐ行きます。道幅はせまく、自動車は一方通行です。横大路はすっかり生活道路になっています。
「横大路」終点・伊勢街道へ続く
小さな商店街を抜けたところで大きな通りに出ました。本町通りの入り口です。横大路はこの先、多武峰街道、伊勢街道へと続いていきます。
今日の「横大路ウォーキング」の「ゴール」です!
13時41分到着。近鉄大和八木駅から約2時間のウォーキングでした。
写真を撮りながら、ウォーキングメモを書きながらの歩きだったので2時間かかりましたが、せっせと歩くなら1時間30分くらいで行けそうな感じです。
この大きな通りは桜井の駅前通りです。左に行くと桜井駅(JRと近鉄が駅舎共有しています)、右は「安倍文殊院」に通じる道です。
(実はこのあと、「安倍文殊院」まで歩きました。その様子はまたの機会に)
はじめて「横大路」を歩きました。
2時間あまりのウォーキング、高低差のほとんどない平坦な道だったので、体力的には楽なほうでした。ゴールしたのが午後2時だったので、時間にも余裕がありました。
「古道」と言っても住宅地を抜けていくので、自然豊かというわけでもないし、有名な神社仏閣がひしめいているわけでもありません。が、地元に大事にされている神社やお寺、地蔵堂を見たりしながら歩く楽しさがありました。
古代からの道と、現在の生活道路。いろんな道が交差したり、重なったりする場所にちょっと立ち止まってみるのもいいなあと思いました。
皆さんもぜひ、横大路を歩きにきてくださいね。
付録:横大路のトイレ事情
八木札の辻交流館にトイレがあります。それ以降、残念ながらハイカーのための観光トイレはありませんでした。
香久山駅から300メートルほどのところ、メインの道から少し入ったところに「たちばな公園」があり、公衆トイレがあります。(たちばな公園:桜井市大福116)
JR桜井駅、近鉄桜井駅のトイレは改札内です。駅前にはコンビニエンスストアがあります。
こんにちわ!ミチコです。